Masako YASUKI   +   Shinjiro MAEDA

《Waves on the Ratina》(2024) at IAMAS WS24 (Gifu Japan)

 

展覧会:

DX時代のメディア表現
──新しい日常から芸術を思考する

 

出品作品《Waves on the Ratina》について

安喜万佐子はテンペラと油彩による大判絵画を中心に制作を続けてきましたが、2010年から大判絵画とは違ったアプローチの金箔シリーズにも着手しました。このシリーズの制作過程はこのようなものです。まず、キャンバスにボローニャ石膏を地塗りし、次に、松の輪郭の背景部分に膠(にかわ)を塗布しながら金箔を全面に貼り込んでいきます。最後に、膠が塗られなかった部分の金箔が剥がれ、白い松の形象が浮かび上がって完成となります。

2016年、前田は大阪のアートスペースCASで初めて安喜の金箔シリーズ『松林図』に映像を投影しました。当初、絵画と映像の関係を探る中で、映像投影によって絵画の特性を顕在化することを思いつきました。具体的には、映像を絵画に投影することによって、絵画の「静止した物質」であり「平面」であるといった特性を強調できるのではないかと考えたのです。これは、絵画と映像の異なる点(静と動、物質と非物質)と、共通点(平面性)に着目して生まれたアイデアでした。以前は、安喜の絵画を素材にした映像作品を制作したこともありましたが、実物の絵画に映像を投影することで、新たな視覚体験を共同で目指す方向性が生まれました。その後、このプロジェクトは、奈良、モスクワ、東京、横浜、京都等で発表を続けながら展開していきます。

今回、「アフター・コロナ」や「DX時代」をテーマにした本展に出品することで、近年における、このプロジェクトに対する考え方の変化を省みることになりました。ひとつは、プロジェクターによって投影される映像への感受性についてです。コロナ禍にリモート・コミュニケーションを含む各種のオンライン視聴が日常生活に浸透し、ディスプレイと向き合う時間はますます長くなりました。また、この数年は、街中や娯楽施設などでの大型映像の表示方法が、プロジェクターからLEDパネルに切り替わっていく変化の時期でもありました。あらためて、プロジェクター投影について考えると、それは、面に光が投影され、焦点があった像をその場で知覚するといった「出来事とともに受けとめる視覚体験」だったことに気づかされます。つまり、映像は、物質や空間と結びつくことで、単なる情報ではなく、出来事としての視覚体験になり得たのではなかったでしょうか。その場に光源があることも重要な要素かもしれません。また、このプロジェクトを通じて、絵画と映像表現に内在する平面性とは、人の瞳の網膜が面であることと関係していることを意識するようになりました。

今回のインスタレーションは、安喜の絵画と前田による映像と写真で空間を構成しています。1.単体の金箔絵画、2.縦型ディスプレイによる映像、3.金箔絵画と映像投影、4.金箔の絵画とその実寸サイズの写真、5.木炭による地面のフロッタージュと実寸サイズの同位置の地面の写真、これらの5つの要素を通じて、空間をともなう多様な平面が、鑑賞者に出来事としての視覚体験を提供することを目指して構成しました。

/前田真二郎

 

過去の展示記録:

《Procession of Light》 (2023)at galerie 16 (Kyoto, Japan)


《silent reections, birds at dawn + birds, waves, snow》 (2022)at TERRA-S(Kyoto, Japan)

《pine trees #7 + birds / high tide》 (2022) at FEI ART MUSEUM YOKOHAMA(Japan)

《pine trees #6 + birds / high tide》 (2020)  at Kyoto-ba (Kyoto, Japan)

《pine trees #5 + high tide in snow》 (2018)  at The Artcomplex Center of Tokyo(Japan)

《pine trees #4 + high tide》 (2018)  at RuArts Gallery (Moscow, Russia)

《pine trees #3 + kite at high tide》 (2016)  at Asanuma Memorial Hall(Nara, Japan)

《pine trees #2”+”high tide》 (2016)  at CAS (Osaka, Japan)

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