ドキュメンタリー・ドリーム・ショー 山形in東京 2012
ニュードックスジャパン プログラム:
『BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW 2011-2012 』

8月28日(火)21:00 ~ オーディトリウム渋谷
9月7日(金)16:30~ ポレポレ東中野

<堀家敬嗣セレクション・16作品>
鈴木光、崟利子、木村悟之、岡本彰生、萩原健一、齋藤正和、上峯敬、高尾俊介、石川多摩川、
前田真二郎、大木裕之、若見ありさ、マトロン、池田泰教、高嶺格、五十嵐友子

BETWEEN YESTERDAY & TOMORROW 2011-2012
16 films selected by Horike Yoshitsugu

今回のプログラム作成にあたっては、
○一作家一作品に限る 
○作品の多様性を重視する 
○撮影期日の偏りを避ける
を作品選定の基本的条件とし、
選定された16作品を時系列に則って並べることとした。

堀家敬嗣(映像論/表象文化論)

01.
IN THE CAR  鈴木 光 
相馬(福島)/2011年4月3日
大震災後1ヶ月にも満たない混乱した時期にあって、福島県出身の作家により被災
地で撮影されたBYTプロジェクト最初期の作品。原発事故の影響が未だ判然とし
ないなかで、むしろ津波の爪痕が色濃く残る福島の様子を捉えている。

02.
OHKAWA 崟 利子 
天満橋 大川(大阪)/2011年4月12日
かつて大震災を経験しながら、その困難をようやく克服したかに見える16年後の
大阪でもまた、花見に浮かれることの憚られた桜の季節に、しかし夜桜を照らす
灯りが点されなくとも、きっと温んだ空気につぼみは膨らみ、花が咲き、散り、
風に舞った花びらは暗い川面を海へと流れる。

03.
OUR PLACE 木村 悟之
伊勢崎(群馬)/2011年8月31日
電力不足や物流停滞がいくらか解消された一方で、依然として余震や放射線被爆
への底知れない不安に怯えていたころの東京で、新しく家族となったひとりの映
像作家とその妻との日々の暮らしは、おそらくこの空のもとに生きる他の誰のも
のでもありえたはずだ。それでもなお、これを象る黄金色の光は、ささやかな、
しかし他のなにものにも取り替えのきかない具体性をそこに充溢させるだろう。

04.
ISHINOMAKI 岡本 彰生
石巻(宮城)/2011年5月4日 
被災地の避難所で催された編みもののワークショップにおいて、毛糸を編んでい
く被災者たちの繊細な運指の軌跡を凝視するカメラ。そして観客の時間感覚を変
容させるとともに、遅々として捗らない被災地の復旧作業もまた、結局のところ
そうした運指の軌跡の膨大な集積による編みものとして以外には達成しえないこ
とを強く思わせるスローモーション。

05.
Suzuka Mountain Trail 萩原 健一
鈴鹿山系(三重)/2011年5月4日
日々の生活のわずらわしさからしばし離れ、とりわけ過酷なわけでもない自然と
の身体を介した緩やかな対話を試みたとたんに、生の傍らに共存する死があっけ
なく姿を露わにする。カメラがそうした機会に偶然にも立ち会ってしまうことの
事件性に圧倒され、過去の記憶に裏づけられた日常への確信は動揺する。

06.
The Horse 齋藤 正和 
垂井(岐阜)/2011年5月21日
いかなる仕方や程度であれ、震災に直面した誰もが再確認したにちがいない家族
のかたち。チャイルドシートに包まれ、睡魔にさらわれた子どもの見る紫の馬の
夢を支えるのは、揺りかごのように心地いい自動車の振動などではけっしてな
く、父と母への無垢の安心にほかならない。

07.
Monju 上峯 敬
敦賀(福井)/2011年5月31日 
高速増殖炉「もんじゅ」への霧雨の旅は、しかしこの科学技術の結晶に対する反
抗の立場の明瞭な表明を回避する。ここではもっぱら作家は、たとえば無人の客
車で、整然と並んだ空き座席の背もたれを順に舐めるように窓から差し込む光の
帯を望遠レンズでみつめる場合と同じ姿勢で、この結晶に得体の知れなさを糊塗
する事物のいちいちを漏れなく見定めようとするばかりだ。

08.
Hazuden/Electricity 高尾 俊介
浅草橋(東京)/2011年6月19日 
前年と同等の酷暑が予想され、冷房のための電力の大量消費が懸念される真夏の
到来を前に、大震災の後遺症は、津波や地震それ自体による被害から原発事故に
由来する社会的な危惧へと変質した。原子力に依存しない発電をめぐるワーク
ショップで点された仄かな灯りの心許なさは、まさしくデジタル化された映像自
身の拠って立つ平面のものである。

09.
Jingu Stadium 石川 多摩川 
明治神宮外苑 吉祥寺(東京)
節電の夏の終わり、最後の夕涼みがてら娯楽を求めて都心の野球場に駆けつける
人びと。グラウンドを転がり、夜空に舞う白球を眩く映し出すはずの照明は、だ
が必要最小限の輝きを維持するのみだ。薄暮のように仄暗い観客席にバックスク
リーンの電光掲示板が伝える地震速報。束の間の憂さ晴らしにも、なお大震災の
余波は残る。

10.
ONAGAWA 前田 真二郎 
女川町(宮城)/2011年8月31日
歪みのうちに蓄えられうる臨界点を超えて開放され、海水を媒介に津波のものと
なって陸地に押し寄せた地殻変動の膨大なエネルギーは、人智の粋である鉄筋コ
ンクリートの建築物をも根こそぎ横倒しにして回収され、もとの平衡状態のうち
に納まる。これを自然界の精度と驚くとき、そこでは人智の精度もまたその範疇
を出ないことに気づく。

11.
Sei 大木 裕之
東京/2011年9月11日 
過ぎる夏の暑気を溜めた黒いアスファルトに突如として青天が撒き散らす雹。逆
光に輪郭を透かされながら、これを数える暇もない速度で落下してくる大粒の雨
の結晶は、強く路面を打って跳ね返り、溶解し、湿っぽい熱とともに埃の匂いが
あたり一面に立ち昇る。こうして希釈され、次第に衰弱していく夏の名残り。

12.
A Child’s View 若見 ありさ
世田谷 品川(東京)/2011年9月11日
かつて世界は子どもと同一であり、子どもは世界と均一であった。やがて世界は
子どもから分かたれ、子どもは世界の広がりを知る。母親とは、したがって、世
界の中心に自らの存在を帰納しはじめた彼が最初に撫でる身体の外側、最初に象
る他者性の界面にほかならない。

13.
MONUMENT マトロン
陸前高田 気仙川 一本松 大船渡(岩手)/2011年12月10日
夜の闇は被災地の困難を覆い隠し、月の一本松に寂しさの趣を与えることも厭わ
ない。重機の足もとに堆く積まれた震災瓦礫の山のなかで腐敗し、発酵して熱を
帯びた有機物の自然発火による煙幕もまた、この幽玄の情への耽溺を唆しつつ、
現実の過酷さを抽象化し、劇的な風景へと変容させる。そこではただ一匹の鮭の
みが、そうした情緒に無関心なまま自らの生命の具体性を全うしようとしてい
る。

14.
Hanging in midair 池田 泰教
郡山(福島)/2012年1月8日
新年を迎えてなお放射性物質を拡散させる事故現場から遠くない仕事場で、黙々
と手作業を続ける父。ラジオが饒舌に喋り、ビニール袋が粗雑に擦れ、耳障りな
までに脚立が軋むほど、この空間の寡黙さはいっそう際立つ。父親の人柄が聴覚
的に象られていくその一方、彼が手もとの小さな電子部品を組み立てていくのと
同じ仕方でカメラはこの緊密な空間をみつめる。

15.
VOICE OVER FUKUSHIMA 高嶺 格
メトロ(京都)/2012年1月21日 
なんらかの出来事を物語るのではなく、出来事を物語る行為そのものについて物
語ること。あるいはむしろ、出来事について物語る言葉それ自体について物語る
こと。やがて作家の反省は、言葉が表象する意味内容から言葉を実現する声その
ものへと、思考の対象を移行させる。この声の持ち主が音楽家であったことは、
けっして偶然ではないはずだ。

16.
AGATHA 五十嵐 友子
南相馬(福島)/2012年3月11日
波とは、絶えず更新される現在、明滅する一瞬である。この一瞬のうちには、そ
うして更新されてきた無数の古い諸現在の膨大な軌跡が圧縮されている。海面上
に生起する波の動きを実現するもの、すなわちそれを支える潜在性とは、かつて
現在であった無数の一瞬をすべからく回収し、まったき記憶として蓄積された唯
一の持続、要するに過去一般としての海にほかならない。
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